平日スーツの若者が週末は奥多摩の山へ向かう——2026年、なぜ東京で「狩猟免許」の倍率が跳ね上がっているのか
狩猟 免許 東京の窓口に並ぶ顔ぶれは、かつて世間が思い描いていた「山奥のベテラン猟師」の姿とはまるで重ならない。東京都環境局が発表する講習や試験の受付開始時刻、午前9時00分。クリック合戦となった予約サイトは数分でアクセス制限がかかり、平日の座席枠すら瞬く間に埋まる。キャンセル待ちの列に並んでいるのは、目黒区のWebディレクターや丸の内の金融機関で働くデスクワーカーたちだ。スニーカーを履き、カフェでタブレットを開いて鳥獣保護管理法の条文を暗記する彼らは、今や首都の生態系と都市生活の境界線に立つ新たなアクターになりつつある。
「朝から晩までキーボードを叩き、数値上の成果を追いかける日々に限界を感じていた」と語る32歳のITエンジニアは、有給休暇を使って安全講習へと足を運ぶ。食肉の流通不安やオーガニック志向、さらには都市の閉塞感に対する反動として、自らの手で獲物を仕留め、解体して食卓に並べるプロセスを求めて狩猟 免許 東京の門を叩く都市生活者がここ数年で急激に増えた。かつては農村の自衛策か定年後の道楽と捉えられていた営みが、2026年の東京では、手触りのある現実を取り戻すための切実なライフスタイルとして再定義されている。
予約サイトは数分で満席:2026年の受検競争が激化する背景
東京都内で狩猟免許を取得しようとする者が最初に突き当たるのは、試験の難しさではない。座席の確保だ。定員制で行われる事前講習会や適性試験は、受付開始と同時に枠が消滅する。都内のハンター不足を解消すべく行政側も枠の拡大を試みているが、それを上回るスピードで「獲りたい側」の希望者が押し寄せている。
背景にあるのは、単なるアウトドア人気の延長ではない。長引くインフレで精肉価格が高騰し、ジビエが「高級食材」から「自活のための選択肢」へと認識を変えたこと。そして、リモートワークが定着した結果、平日は都心で働き、週末は青梅やあきる野、奥多摩へと足を伸ばす二拠点的な行動様式が一般化したことが大きい。画面の中の仮想現実に飽き足らなくなった人々が、泥と血の匂いが漂う野山へと視線を向けている。
「肉を買うより、獲る」——食のリアリズムと都市住民の衝動
スーパーのパック肉には、命を奪う痛覚も、内臓を抜くときの生々しい温もりもない。都市の利便性は死のプロセスを不可視化してきたが、いま受検会場に集まる20代から40代は、その切り離された現実に違和感を抱いている。
都内のシェアキッチンや民間施設では、解体ワークショップが連日盛況だ。皮を剥ぎ、骨を外し、筋膜を分ける。指先につく脂肪の重みと獣の匂い。参加者たちは講習テキストをめくりながら、「自分で殺した責任を引き受けて食べる」という原始的な倫理観を語り合う。趣味という軽薄な言葉では片付けられない、生活の主導権を自分の手に取り戻したいという執念が、この静かなブームの根底に流れている。
わな猟か、銃猟か:狭小住宅が突きつける現実的な壁
東京都心に暮らすハンター志望者の多くが、第一歩として選ぶのが「わな猟免許」だ。第一種・第二種銃猟免許のハードルが、都心の住宅事情と真っ向から衝突するためである。
散弾銃やライフルを所持するには、所轄警察署の極めて厳格な審査を通過しなければならない。銃本体と実包を完全に分離して保管するガンロッカーと装弾ロッカーの設置が義務付けられるが、都内のワンルームや1LDKの賃貸マンションでは、重量と固定場所の確保だけで頭を抱えることになる。近隣住民への聞き込み調査や家族の同意、精神科医の診断書取得など、クリアすべき関門は果てしない。結果として、初期費用が抑えられ、自宅に危険物を保管する必要のない「くくり罠」を前提としたわな猟へと人が流れる構造が生まれている。
奥多摩・多摩西部の叫び:都市のすぐ隣で進む獣害のリアル
新宿から中央線の快速に乗り、1時間半ほど揺られるだけで風景は一変する。奥多摩や檜原村、八王子や町田の山沿いでは、シカやイノシシによる農業被害・森林破壊が止まらない。増えすぎたシカが下草を食べ尽くし、保水力を失った斜面が豪雨で崩れるリスクは、下流に暮らす都民の生活にも直結している。
現地の猟友会は高齢化の一途をたどる。70代、80代のベテランが第一線を退くなかで、山を守るための人手は決定的に不足している。過密地帯の東京と、獣に侵食される多摩の山林林縁部。この両極端な地理条件のなかで、都心の若手ハンターと現地の農林業関係者がいかに連携できるかが、東京都の環境政策における最大の急所となっている。
合格率8割の裏側にある「実技試験の冷徹な減点基準」
狩猟免許試験そのものの合格率は全国平均で約8割と、数字だけを見れば平易に映る。だが、数字を鵜呑みにして試験場へ向かった初心者は、実技試験の張り詰めた空気の中で足元をすくわれる。
筆記試験の法令や鳥獣判別は暗記で乗り切れる。問題は、猟具の架設や模擬銃の取り扱いを行う実技だ。わなを設置する際の一挙手一投足、銃口を絶対に人へ向けない空間認識、安全装置の確認の掛け声。少しの迷いや油断、安全確認の怠りは「即座に危険をもたらす行為」として容赦なく大幅減点される。獲物を捕らえる技術の前に、他人の命を脅かさないための反射神経が試される場であり、都市の緩やかな日常気分を持ち込んだ受検生はここで容赦なく落とされる。
免許取得はスタートにすぎない:待ち受ける「ペーパー猟師」化の罠
苦労の末に東京都知事印が押された免状を手にしたとしても、翌日から獲物が獲れるわけではない。むしろ、本当の試練は合格証書が届いた瞬間から始まる。
狩猟を行うには、免許のほかに「狩猟者登録」を行い、税金を納め、広大な山の中からどこに罠をかけるか、誰の許可を取るかという泥臭い人間関係の構築が必要になる。都内の猟場は狭く、権利関係も複雑だ。地元の猟友会に所属せず、単独で山に入ってトラブルになる新規参入者も少なくない。せっかく免許を取得しながら、一度も山へ罠を仕掛けることなく更新時期を迎えてしまう「ペーパー猟師」の存在は、今の東京が抱える構造的な空洞化を如実に物語っている。道具を揃える熱狂から一歩進み、山と集落にどれだけ深くコミットできるか。東京の週末ハンターたちが直面する問いは、あまりに重い。 (出典: 狩猟 免許 東京(Yahoo!ニュース))